比較するということ(20210724 近近感魂♪魁GAY LIVE 1限・2限)


また良すぎたのでこうなる(1限・2限)

これまで一日二公演のうち、どちらかしか参加できなかった自主公演が席の空きがあるとのことで両公演とも参加が可能になった日だった。結果から書くとまんまとどちらも参加してめちゃくちゃにいいライブだったのでこの文章を書いている。

マチソワで入るのは落ち着くし記憶の解像度が高くなる気がするなあ、と思っていたけどわたしが過去に(実質おなじ内容とされる公演に)マチソワで入ったことがあるのは舞台数回とジャニーズのコンサート数回、合わせて片手で数えられるくらいしかないのでそんなやつがマチソワとか言っとんなよ(そもそもライブとかコンサートはマチソワとは言いません)というかんじではあるけども、それでも「落ち着く」という気持ちになったのは、昼夜両公演入った日というのはわたしのなかでいつもいい思い出になっていて、そういう感情が色濃く体に残っているからなのかもしれない。合間の時間に急いでごはんを食べられるところを探したりとか、抽選当日券の結果が出るまで知らない街を練り歩いたりとか、たまらず喫茶店に入ってお手紙を書いたりだとか、公演そのものだけではなく公演と公演のあいだの時間含めてマチソワが好きなんだなあ。ありがたいことに、この日も大変すばらしいマチソワの記憶としてわたしのなかに残っていく。


この自主公演は原則どちらにかしか参加できないため、両公演はセットリストがおなじになっている。おなじセトリを見たから記憶の解像度が高い、というのももちろんあると思うけど、おなじセトリでどこがどのように違ったのか、おなじセトリで違う位置から見るとどんなふうに見え方が違うのか、と両公演を比べて思い出すことでひとつひとつの公演の思い出せなかったところも思い出せていく部分がある。わたしは比較をすることで記憶をより強固にしているふしがあるのかもしれないとこの日はじめて気がついた。

昼は最前列で、夕方は最後列から見たので見え方は最大限に異なっていた。最前でもいちばんうしろでも頭をぶっ飛ばしてくれるライブをしてくれるこの人たちはつくづくすばらしいアイドルと思う。最後列で見たマイノリティーサイレンで、肩を組んだあとの最後のサビでそこまでのサビとは比べものにならないくらい全員の腕が高く高く上がっていて、この光景が大好きだなと思いながら、この会場はこんなに狭かったのか、これだけしか人数が入っていなかったのかとびっくりした。いちばん前でおなじステージを見ているときには腕を上げながら客席を見渡す紅さんの表情を見ていて、それを見ているともっとずっと広い場所にいると思えていたから。こんなにすごいライブなのにこんなにすこしの人にしか見てもらえていないのか、とこの瞬間だけ悔しくなってしまった。なんだかわたしはこの人たちを好きになってからこの人たちをもっとたくさんの人が見る機会があればいいのに、って思い続けているような気がする。


この二公演でいちばん「マチソワ」を感じたのは(1+1)×0=0のミキさんの表現だった。
「どこかで生きているのに/もう会えない人は/死んでしまったのと全然違う/そして それは 時に同じだ」、三人の作るサークルのなかでひとりミキさんが歌うここを、1限でミキさんはそれから抜け出て上手側で歌っていて、円のなかにはだれも存在しないままだった。2限ではサークルのなかで客席に背を向けて上に上に手を伸ばして歌っていた。1限のミキさんは「死んでしまった人」その人に見えたし、2限のミキさんは残された生者だと思った(書きながら思ったけど、これを逆だととらえる人もいるだろうな)。どこで歌うかのポジションの違い、前を向くか背を向けるかの違い、それだけなのにそれだけで意味の逆転を感じさせるのはものすごく舞台的と思ったし、創造主のミキさんだからこそ逆転させられるシーンだな、と思う。


いちばん前で見ていると、メンバーが膝をついたり、地面に這いつくばっていてもだいたいその体のかんじから表情、髪の毛が散らばって広がるかんじまですべてを見てとることができる。いちばんうしろで見ていると「膝をついている」「這いつくばっている」ことすら観客の頭に隠れて分からないんだなと、当たり前だけどはじめて分かったような気がした。でも「見えないから意味がない」ってことはまったくなくて、たとえばHe is me,tooでミキさんが立ち上がって歌いメンバー三人が地に這って踊るシーンでは、ミキさんのまわりでだれのものか分からない白い腕が立ちのぼってくるさまが見える。ウサギと賽子さんの呼吸のシーン(これはまあ二人は立っているのでまた違う部分ではあるけど)では、ひとり歌うミキさんと、対応する箇所を歌うメンバーが代わる代わる見えて、この人がここの部分を歌うのは意味なのだなとはっきり分かる。ありがたいことにここ最近は視界良好な状態で見る機会が多いので気づかなかったけど、ミキさんのつたえたいことにいちばん近い光景が見えるのは、もしかするとたくさんの人のうしろから見るステージなのかもしれないな、と思う。


現体制でのいちばんの鬼門は、ずっとウサギと賽子さんだと感じていた。
いまの四人で披露したウサギと賽子さんをはじめて見たときに、すごく率直なことを言うといちばんに感じたのは喪失感だった。あの裂かれるような痛みや苦しみは、たぶんあのときの四人だけのものだった。そしてわたしのなかでウサギと賽子さんという曲はその痛みや苦しみが核にあったんだろうと思う。

前体制がどうしても忘れられなくて、現体制では前体制はけして超えられないと思えていたなら、ないしはもう進むことのない時間よりも今進んでいく時間のことだけを考えていられたならそのどちらかを切り捨てるだけでおわりにできたのかもしれないけど、困ったことにわたしはわたしが好きになったときの四人のことを心から愛しているし、いまの四人のことを愛している。どちらも捨てることができなくて比べることのできないものだから、わたしは絶対に比較をしたくなかった。ただ、おなじ曲を歌いつづけてくれること、おなじ振りを踊りつづけてくれること、おなじステージに立ってくれること、そういういろいろなことがあるからどうしても比べてしまう瞬間というのは数多く存在したし、きっとこれからもそうなんだろう。

この日、1限でのウサギと賽子さんを見て、戻ってきた、という感覚で体がいっぱいになった。足りてなかったものなんてほんとはないし、戻ってくるということもないんだけど、理屈ぬきでそんな気持ちになってぽろぽろ涙が出た。賽子さんでこんなふうに涙がでるのははじめてなんじゃないか。なんでそう思ったのかって聞かれたらわたしはまったく分からないし、あのときみたいな「裂かれるような痛みや苦しみ」があったのかと聞かれたらそれもまた違う。紅さんはこの日の1限の特典会で真っ先に賽子さんのうたいかたを変えたんです、わかりましたか、と聞いてくれて、わたしはそれを教えてくれたことがとてもうれしかったしわかったのでわかったよと答えた。紅さん自身はやさしく歌うようにしたんですと言っていて、わたしは歌というよりも話しことばにすこし近づけた表現にしたように感じていて、「ステージパフォーマンス」というよりも「生」に近い温度に感じられてそれがとても好きだった。わたしはこの歌を、運命をうけいれる曲と思っていて(そしてそれがすごく好きだ)、でもこの日の2限のさいごでは、いまこれは運命をくつがえす曲になっているんだと思えて泣いた。はじめての気持ちの動きかたでびっくりした、それこそ何とも比較のできないような。


それともうひとつ、わたしは「比較をすること」ってすごく失礼になってしまうこと、そう感じられてしまうことが多いからできるかぎりしたくないと考えている。ただ、ウサギと賽子さんを見たときに感じた喪失を大切にしたいな、ともこの日すこしだけ思うことができた。あの日見た痛みや苦しみはきっと練習して出せるものじゃなくて、それをステージで表出していた四人はなんてすさまじい人たちだったんだろうか。比べることであのときのすごさに気づくことができること、それを思えることは、別れを悼むこととしてひとつのただしいかたちのような気がした。


むかし推しのことをもう一度この人が推しだ、と思えるくらいに衝撃をうけた瞬間のことをセカンドインパクトだって表現したんだけど、この日はわたしにとっての二丁目の魁カミングアウトというグループ自体のセカンドインパクトだったかもしれないなと思う。はじめて感じるような気持ちがたくさんあった。すごくすごく衝撃的でいいライブで、でもきっとこの先「この日に戻りたい」と思う気持ちよりかは今日この日こんなにいいライブなのにこの先もっといいものが見られる確信、みたいなものをライブ中めちゃくちゃ感じていたワクワクのほうがおおきい気がする。それって超すてきなことだし、わたしのそういうワクワクの真ん中にはいつも紅さんがいるな、と思う。1限の(1+1)×0=0の、ラストの「生きてほしいと願ったときに」の「(生きて)ほしい」の瞬間だったと思うんだけど、その瞬間ふわっと笑う姿を見て、ここで笑うんだなあと、紅さんはこの歌を光のほうへのぼっていく歌ととらえているように思えて、そのことが大好きだなあと思う。わたし個人としては、二丁目の魁カミングアウトの歌はどれも叶わなかった/叶わない痛みが根底に敷かれているように思っていて、だからこそ自分の心に近しいと思えるし、(1+1)×0=0の「はじめて割り切れない気持ちを知るんだろう」につづく「もうすぐ」は、ほんとうにもうすぐなんだ、ってけして言いきれない「もうすぐ」だ。でもわたしは紅さんがああやって笑うからもうすぐなんだって信じることができる。なんてすてきなことなんだろうか。


夏の雲だ〜と思った!

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